映画雑感ー本屋時々映画とドラマ

映画・ドラマレビューばかり書いている書店員のよもやま話

2021年、『ライジング若冲』の正月

『ライジング若冲』(NHK)を見た。 円山応挙、伊藤若冲、池大雅、そして若冲を支える相国寺の僧侶であり詩人、大典顕常。売茶翁の元に集う、江戸時代の芸術家たちの物語。 常にキラキラした目で世界を覗き見しているかのような、中川大志演じる岩次郎(後の…

『ミッドナイトスワン』を白鳥の物語として解いてみる(ネタバレ)

内田英治監督、草彅剛主演の『ミッドナイトスワン』。 草彅剛演じるトランスジェンダーの凪沙が、親戚の娘・一果を預かることで変わっていく様を描いた。それぞれに生きづらさを抱えた二人が心を通わせ、身を寄せ合い生きていく姿、凪沙が凄絶な努力をして一…

『ナラタージュ』の足。

『ナラタージュ』(行定勲監督)は「足」の映画である。 有村架純演じるヒロイン・泉の前には2人の男がいる。1人は松本潤演じる、彼女がいつまで経っても忘れられない、高校時代の担任教師・葉山。もう1人は、彼女のことが大好きな坂口健太郎演じる大学生…

『町田くんの世界』の世界

朝、映画を観にいくために電車に乗る。 電車の向かい側で泥だらけの長靴を履いて足をいい感じに組んだ農夫がいかにも絵画のように佇んでいた。 その一席空けた隣に座った、仕事終わりのスナックのママとお姉ちゃんといった具合の、茶髪で露出高めの2人組。 …

WORKS

今まで書いたものをまとめておこうと思います。これからも随時このページで更新していきますのでよろしくお願いします。 web媒体 「リアルサウンド映画部」(テレビドラマ・映画・本レビュー) realsound.jp 「プラスパラビ」(テレビドラマ各話レビュー) p…

本の話。『海苔と卵と朝めし』

ドラマ『きのう何食べた?』の2人があまりに楽しくて、さらには事前に何冊か原作を読んだらハマッちゃって1週間に1冊ずつ読んだりもしていて、なんだか珍しく料理をちゃんとしたくなる今日この頃である。 だが、最近すっかり料理めいているのはそれだけでは…

『未知との遭遇』をしておいおい泣いた

『未知との遭遇』(スティーブン・スピルバーグ)を観た。 今更ながら。恥ずかしながら。 「午前十時の映画祭」で幸運にも映画館で遭遇することができたのだ。 おいおいと泣いた。 周りの人の目が気になるぐらいには一人で泣いていた。 未知なる飛行体と遭遇…

かっこいいじいちゃんとオンディーヌな悪女(『運び屋』と『サスペリア』)

最近観た映画諸々。 『運び屋』(クリント・イーストウッド)と『サスペリア』(ルカ・グァダニーノ)。 『運び屋』は 「じいちゃん、かっこよすぎ!」 に尽きる。 仕事と男の友情にかまけていろいろやらかして家族も離れていって、遂には運び屋稼業に手を出…

ある日常と祝祭(「半世界」)

「なんか、映画みたいだな」 長谷川博己演じる瑛介は終盤、そう呟く。 葬儀場に降る、光に満ちた春の雨が、まるで人生を全うした故人に送る祝いの雨のように降りかかり、哀しみの場所はしみじみとした祝祭の場所に変わる。それと同じように、瑛介の台詞は、…

想像で空は飛べるのか(『唐版 風の又三郎』)

織部:「君はもしかしたら、風の又三郎さんじゃありませんか?」 少年(エリカ):「君はだあれ?」 織部:「僕は読者です」 (『唐版 風の又三郎』(「唐十郎Ⅰ」,ハヤカワ演劇文庫,p.102) いつからだろう。舞台を観ていると淋しくて淋しくて、泣きじゃくりそ…

シャボン玉とクルミのお団子(映画『PARKS』と『モンテ』)

さてさて、せめて一ヵ月更新と心に決めた傍から滑りこみセーフの2月の終わり。 今回は先日お江戸に行った話でも。 とはいえ特段予定があったわけではなく、ただひたすら見たい映画を見るためだけの4日間。 それでも珍しくいろんな人と飲んだり話したり(すご…

地獄巡りと名美巡り、またの名を歌謡曲巡り(『ラブホテル』考)

山口百恵の「夜へ・・・」(1979)は深い、深い闇へと静かに分け入っていく。 少女が女になるその瞬間を、初期の曲の浮き足立った青春の「あなたに女の子の一番大切なものをあげるわ」(「ひと夏の経験」)から、ど直球な「あなたの○○○が欲しいのです」(「美・…

イカイカシャコシャコ(『FRIED DRAGON FISH』岩井俊二)

岩井俊二監督の『FRIED DRAGON FISH』で、深海魚のカラアゲをワイルドに食べる美少年・浅野忠信を観ながら、 もくもくとシャコを剥いて、食べていた。 人も魚も、なんの躊躇もなく殺せる上に、無造作なのにあんなにお洒落な部屋で過ごしちゃってる(壁の時計…

死神のようなバクと、確かなものなどない、この世界の話(『寝ても覚めても』)

映画『寝ても覚めても』(濱口竜介監督)。 「俺の代わりはちゃんといるから大丈夫」 麦(バク)はそういった。突然現われ、消え、しばらくしてまた現われ、唐田えりか演じるヒロイン・朝子をかっさらっていく彼は、まるで宇宙人のようだった。黒沢清監督の…

「道」な一日(『日日是好日』・『顔たち、ところどころ』)

最近、仕事の関係で引越しをした。まだ慣れない街を自転車で疾走する。最寄の無人駅は、たまに地域の人たちが集まる立ち飲み食堂に変化するそうで、その次の日なのだろう、木製のベンチには酔っ払いの走り書きのような落書きと柿ピーが詰まっていた。会った…

海を駆けてきたのです(『海を駆ける』)

先日海を駆けてきた。 覚えていないだろうか。ドラマ『モンテ・クリスト伯』を観ている最中、CMでのつかの間の休憩中、突然流れる映画の宣伝に圧倒または当惑したことを。「真海さん(『モンテ・クリスト伯』での役名)がまたもなにやら海から漂着している!…

過去に囚われた2つの雲の物語『浮雲』と『乱れ雲』(成瀬巳喜男監督)

ただのミーハー心で聴いた銀杏BOYSの「骨」が、最近頭から離れなくて。 「浮雲のように私を連れ去っていく」というフレーズを繰り返し呟いてしまう。 そう、それで『浮雲』。 学生の時見たときは正直よく分からなかった。道ならぬ恋の熱情も消え、夫婦になる…

愛すべき、ちょっと切ない男たちの物語『素敵なダイナマイトスキャンダル』

幼少期の末井が最後に見た母親・富子(尾野真千子)は、寝ている彼を見下ろしていた。 それが夢だったのか幽霊だったのか、はたまた真実だったのかはわからないが、朝母を捜しに出た父親と息子たちが聞いた山奥の爆発音と、彼を見下ろしている母親の表情が、…

『勝手にふるえてろ』のヨシカは私だ

これはもう、「私」なのだ。そうとしか思えなかった。 一人暮らしの小さな玄関とありふれた茶色のコート、となりの部屋でオカリナを吹いている片桐はいり、イライラを抱えて部屋に帰った時の叫びやらなんやら。浮ついた期待が弾けた後の、広い世界の中で一人…

ときどき「ライターの」と言われることもある、やさぐれ書店員のはなし。

今週のお題「自己紹介」 に便乗して、恥ずかしくも自分の話を。(このブログの使い方もよくわかっていないので、この次更新するかもわかったもんじゃないんですけど・・・) 今の本屋の初日、22歳の私は「卒業旅行に恐山に1人で行って、自殺しようとしている…

『CURE』的な「特別な人間」の夏帆が、虐げられる『地獄の警備員』的な染谷を救う話としての『予兆』

映画『散歩する侵略者』とWOWOWのテレビドラマとして放送され、後に劇場版が公開されたスピンオフ作品である『予兆―散歩する侵略者-』は同じ概念を奪う侵略者と人間との攻防を描いたものであるが、「愛」「共存」という言葉を軸に陽と陰、まるで違った様相…