本の話。『海苔と卵と朝めし』
ドラマ『きのう何食べた?』の2人があまりに楽しくて、さらには事前に何冊か原作を読んだらハマッちゃって1週間に1冊ずつ読んだりもしていて、なんだか珍しく料理をちゃんとしたくなる今日この頃である。
だが、最近すっかり料理めいているのはそれだけではなくて、この本を読んだからでもある。
向田邦子さんのエッセイ集。『海苔と卵と朝めし』。
旅先の美味しいもの、懐かしく美味しい記憶、俳優や女優、文豪と食の話、小料理屋開店の心得、といった、食にまつわるエピソードも堪らなく楽しいのだが、なんといってもレシピがいい。その箇所に付箋をつけて、たびたびキッチンで読みふける。
具材もレシピもシンプルで簡単で、私にもできそうで、さらには描写があまりにも美味しそうなものだから、思わず焼きのりとショウガを買ってきてしまった。
風邪の時のネギ雑炊に、かつお節と海苔を交互に重ねる海苔弁、ショウガとお酒としゃぶしゃぶ肉とほうれん草のみで作る豚鍋、アボカドの刺身、ごま油でカラッと作るいり卵。
そして巻末の『寺内貫太郎一家』。ハンストするミヨ子が主役の「蛍の光」。
投げられたアンパンを泣きながら食べるミヨちゃんがあまりにも健気で可愛くて、夜、長椅子に寝そべって、電気がある明るいほうに頭だけ出すという変な体勢で読んでいたのだけれど、ボロボロと泣いてしまって、床に涙がボタボタと落ちた。これほど愛おしいものがあるかと思った。楽しく楽しく読んでいたら、太田光が『夜中の薔薇』という向田さんのエッセイの帯に書いていたように、「突然撃たれ」たのだ。
これは樹木希林と浅田美代子の物語でもある。本屋には樹木さんの本、樹木さん賛美の本が所狭しと並んでいるけれども、私が好きなのは、映画やドラマの中で生き続けている樹木さんだ。
「食」にまつわる物語というのは、たとえ時代が変わったとしても、常に優しくて、愛おしい。例えそれを書いた人も、演じた人ももうこの世にはいないとしても、変わらず人を泣かせるのである。きっとこれが「幸せ」というものの姿なのだと思う。